村田雅志

ただ興味深いのは、こうした状況にもかかわらず、ビットコインの価格は、マウントゴックス破綻後も暴落することなく、前述したように600ドル超の水準で安定していることである。これは、富の保蔵機能に対するニーズは低下したかもしれないが、送金機能や決済機能に対するニーズは依然として高いためと思われる。 金融機関に口座を保有していなくても、非常に低い手数料で送金を可能にするというビットコインの利点は、先進国だけでなく新興国で生活する人々にとっても非常に魅力的だ。グローバル化の進展で先進国と新興国との間でのマネーフローは拡大を続けているが、新興国に送金する際には多額の手数料が発生するほか、送金完了まで時間がかかるといったデメリットがある。低額かつ短時間で送金が可能なビットコインは、ビジネス界でのグローバル化の流れに非常にマッチしたものといえる。 クレジットカードに比べ低い手数料で決済を可能にする点も大きな利点である。インターネットでの買い物ではクレジットカード決済が一般的となっているが、カード番号や個人情報を提示することに躊躇する方も多い。一方、ビットコインであれば個人情報が流出する可能性は非常に低く、ネットでの決済もスムーズである。 現に米国のネット通販大手でナスダックに上場するオーバーストック・ドット・コムや、米家電販売大手サイトを運営するタイガー・ダイレクトは今年1月、ビットコインの受け入れを表明した。米メディアの報道によれば、オーバーストック・ドット・コムでは、ビットコインを使用した購入は予想を上回るペースで伸びており、ビットコインによる14年売上高の見通しを従来の500万ドルから1000―1500万ドルに引き上げた。 マウントゴックス破綻を機にビットコインは、消滅するとの見方も一部にあるようだが、既存の金融システムに比べ送金機能や決済機能の点で優位を維持している以上、実際には今後も一定の存在感を示し続けると思われる。ただ、低コストの送金機能や決済機能は、ビットコインだけでなく他の仮想通貨にも備わったものである。すでにビットコインの欠点とされるマイニング時間の長さ(約10分)などが改良された「リップル」という別の仮想通貨が、ビットコインに代わる存在として認知度を高めている。 世界はビットコインを通じインターネットに立脚した仮想通貨がもたらす利点を深く理解してしまった。たとえ何らかの理由でビットコインの存在感が低下したとしても、仮想通貨のニーズは今後も強まり続け、強い需要を背景に普及が進むと考えた方が自然と思われる。